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眼炎症部の近況 --------------------------<1> |
平成11年4月、杏林大学に赴任して以来、眼炎症部と黄斑疾患部を担当しております。ご存知の方も多いかと思いますが、この2つの専門分野の特殊外来や専門グループは杏林大学眼科では初めての試みでした。もちろん、それ以前も樋田教授、平形助教授をはじめ、網膜硝子体の先生方(VR班)によって診察、加療されておりましたが、これをきっかけに、ぶどう膜炎および加齢黄斑変性のような黄斑疾患の対応を制度化させていただきました。黄斑疾患部については、杏林アイセンター・ニュースレターのvolume
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(2000年2月)に述べさせていただきました。(ニュースレターのバックナンバーはアイセンターのホームページ http://www.eye-center.orgにありますので、是非ご覧ください。)本号では、眼炎症部の活動を中心に紹介させていただきます。
この仕事を成功させるためには、優秀な人材が必要であり、幸いこれについては、眼炎症部・黄斑疾患部は恵まれております。当初は、森村佳弘、宮本裕子両先生と一緒に外来と入院の業務を設立し、平成12年4月から平成13年5月までは、関西医科大学眼科から国内留学でいらした河原澄枝先生にも手伝っていただきました。また、平成12年4月以来、月曜日の眼炎症外来に参加されていた慶応大学眼科の若林俊子先生が、本年6月から本格的に眼炎症フェローとして杏林で勉強することになりました。さらに4月からは、東京女子医科大学眼科で7年間の経験を積まれた浅野由香先生、5月からは大阪大学眼科で研修を終了した小島絵里先生の2人もフェローとして眼炎症部・黄斑疾患部に参加されております。大変、賑やかなグループになりそうで、益々仕事が楽しくなり、色々なプロジェクトに取り組んでいけるのではないかと、期待しております。
本号では、若林先生に眼炎症外来へ紹介された患者の疫学調査について、森村先生には、今年5月号のOphthalmologyに発表された結核によるぶどう膜炎について、浅野先生には、杏林では特に多い原田病に対するステロイドの点滴パルス療法の成果について書いていただきました。
私たちは、眼炎症疾患および黄斑疾患の最先端の医療を目指して、臨床をすすめていこうと考えております。皆様のご指導、ご協力を引き続きよろしくお願い申し上げます。
眼炎症部のTopics
杏林アイセンター眼炎症外来の臨床調査
若林 敏子
1999年4月から2001年3月までに眼炎症外来を受診した219例(男性95例、女性124例、平均年齢45.2歳)を対象に診療録を用い、レトロスぺクティブに検討しました。対象の性別、年齢分布を検討したところ、30歳未満の群と60歳以上の群では女性が多くみられましたが、疾患別の傾向などはありませんでした。以下に疾患別の分類を示します。これらは、術後及び外傷後の細菌性眼内炎は除外し、視神経炎、強膜炎を含みます。硝子体手術を施行した急性網膜壊死は網膜硝子体外来でフォローされており、本統計では1例となっています。
強膜炎が1番多くみられ、全身疾患をともなう症例は8例で、慢性関節リウマチが4例、全身性エリテマトーデスが1例、強直性関節炎が1例、高安病が1例、乾癬性関節炎が1例でした。難治性症例が多く、ステロイド、メトトレキセート内服などの治療を要するものもありました。
次に多く認められたのは、原田病でした。今回の対象では、男性5人に対し、女性14人と女性が多くなっていました。Behcet病は、11例5%と比較的少なく、男性9例と多くなっています。
過去の報告との比較は、症例数、経過観察期間に差があり、単純に比較することは難しいですが、全体に対する割合はBehcet病が少なく、結核性ぶどう膜炎が多くみられました。今回の対象は新しく開始した外来の受診者であり、近年の眼炎症疾患の罹患率を反映していると思われました。
表:疾患別分類
疾患 |
症例数(%) |
強膜炎 |
21(9.6%) |
原田病 |
19(8.7%) |
サルコイドーシス |
18(8.2%) |
急性前部ぶどう膜炎 |
15(6.8%) |
結核性ぶどう膜炎 |
12(5.5%) |
Behcet病 |
11(5.0%) |
視神経炎 |
11(5.0%) |
トキソプラズマ症 |
7(3.2%) |
MEWDS |
4(1.8%) |
交感性眼炎 |
4(1.8%) |
真菌性眼内炎 |
4(1.8%) |
HTLV-1関連ぶどう膜炎 |
2(0.9%) |
地図状脈絡膜炎 |
2(0.9%) |
急性網膜壊死 |
1(0.5%) |
猫ひっかき病 |
1(0.5%) |
サイトメガロウイルス網膜炎 |
1(0.5%) |
Eales病 |
1(0.5%) |
Fuchs虹彩異色性虹彩炎 |
1(0.5%) |
水痘帯状疱疹ウイルスぶどう膜炎 |
1(0.5%) |
Wegener肉芽腫症 |
1(0.5%) |
全身性エリテマトーデス |
1(0.5%) |
原因不明 |
8(37.0%) |
結核性ぶどう膜炎
森村 佳弘
97年、結核の新規発生患者数と罹患率が増加に転じ、99年、厚生省が結核非常事態宣言を発令するなど、近年日本で再び結核が注目を集めています。眼科領域でも結核性ぶどう膜炎については再認識を要します。当科眼炎症外来では、1. 臨床像が結核性ぶどう膜炎に一致し、2. ツ反が陽性で、3. 他の原因がみられない症例を結核性ぶどう膜炎疑いとして抗結核薬(INH単独またはrifampicinとの併用)を投与していますが、投与を受けた症例は、眼炎症外来新規受診者126例中10例でした。うち9例は眼外病変を伴わず、1例で両側肺門リンパ節腫大がみられています。投与後9例で眼病変の軽快がみられました。上記 1, 2, 3 を満たし、かつ抗結核薬に反応した症例を結核性ぶどう膜炎と判断すると、新規受診患者の7.1%にのぼることとなり、日本のぶどう膜炎の原因疾患として、結核はやはり無視できないものと考えられます。
過去3年間に当科を初診した原田病患者18名のデータを簡単に報告します。性別は男性4名、女性14名、平均年齢は38.8±14.3歳、typeはacute 16例、subacute2例、13例に髄膜刺激症状(+)、初診時矯正視力の平均は0.42です。全例に漿液性網膜剥離(SRD)を認め、うちsubacuteの2例および糖尿病網膜症(DR)を合併した1例は脈絡膜剥離を生じました。HLA-DR4陽性は10例で、陽性1例、不明7例です。16例にソルメドール500 mgあるいは1000 mgのパルス点滴療法を施行(3例は2度)、他2例(SRDが軽度であった例、糖尿病(DM)を合併した例)には100 ~ 200 mg プレドニゾロン大量投与を施行しました。平均ステロイド投与期間は6.4±3.8月で、平均投与量は4984.6±1742.8 mg. 再燃(虹彩炎又は嚢胞様黄斑浮腫)を認めたのはacute 2例、subacute 2例、シクロスポリン併用はacute 1例(DM合併例)、subacute 2例です。DR合併例、黄斑部に萎縮巣形成例の2例を除き、いずれも最高視力は矯正1.2。2例にAdie瞳孔(+)も生じました。結論として原田病に対するステロイド点滴パルス療法により、良好な結果が得られました。
杏林大学眼科の主催にて行われます。有明のビッグサイトで、 6月21日(金)〜23日(日)に開催されます。特別講演は永本先生の 留学中アドバイザーであったDr. David C. Beebeです。 関連病院を含めて多くの先生方のご参加をお願い申し上げます。 |
アイセンター・イベント情報
●アイセンター・オープンカンファレンス
国内外の先生にインフォーマルな場で臨床、研究テーマについて講演していただくシリーズです。
外来棟の10階第2会議室で6:30PMから行われます。アイセンター外の先生方も是非ご参加ください。
6月26日(水) 「外来網膜硝子体手術」
堀江 英司先生 (矢田眼科)
7月10日(水)
「加齢黄斑変性に対する新しいアプローチ」 (硝子体網膜関係)
玉置 泰裕先生 (東京大学医学部眼科)
平成14年5月1日より眼炎症部フェローとしてお世話になることになりました、小島絵里と申します。平成10年大阪大学眼科に入局し、1年間大学病院で研修を行った後、NTT西日本大阪病院で2年半勤務しておりました。杏林アイセンターでは、どの先生方もとても熱心にそして楽しそうにお仕事にあたっておられるのがとても印象的でした。東京に住む事自体も初めてで方向もわからず、毎日右往左往の連続ですが、少なくとも病院の中で迷子になるのは少なくなってきました。臨床はもちろん、研究のほうも勉強していきたいと思っておりますので御指導御鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
5月29日、ハーバード大学スケペンス眼研究所の広瀬竜夫先生を招待し、”Dragged Retina -Differential Diagnosis and Treatment”について講演していただきました。
眼炎症部グループは、ぶどう膜炎を中心としてはいますが、他の眼内感染症にも積極的に取り組んでくれています。同時に黄斑部疾患も網膜硝子体斑と協力して臨床研究と治療にあたっています。森村先生以外はすべて強力な女性群、他大学から先生が多いのも嬉しいことです。
本年度は5名のフレッシュマンが入局しました。3名は他大学出身です。名簿の出身校が色々異なっているのを見るのも嬉しいことです。さらに1名当院形成外科で2年間研修を積んだ者も入局しました。この人達のご紹介は次回に。 (TH)