◆ ロービジョン外来・雑記  (田中 恵津子)     -------------- <1・2>

◆ バリアフリー建築への取り組み (西脇 友紀)    -------------- <3>

◆ カンティ先生の紹介                  -------------- <4>

◆ イベント情報                    -------------- <4>

◆ 編集部より                     -------------- <4>

ロービジョン外来・雑記
田中 恵津子

「ロービジョンケア」という言葉はこの5年でずいぶん定着したように思います。学会でとりあげられることも多くなりました。アイセンターでも、専用の部屋を構え一日4〜5人の予約枠を作るようになってから6年目に入ろうとしています。以前のニュースレターでご紹介した時点より少し経験をつんだ今の外来内容の一部をご紹介させていただきます。雑記形式で、最近の話題を少しずつまとめてみました。
1) 読書用の補助具選びのトピック
 どの報告をみても、やはりロービジョン外来を訪れる方が訴える主なニーズは「文字読み」に対するものです。そのような患者さんには、読書検査(文字サイズを変えて読書速度を計測)をもとに最適な倍率を判定したり、目を使った読書から音声・触覚への読書への移行の必要性があるか判定したりします。
 ロービジョン外来に来られる前に、すでにルーペを試されている方もおられます。でも残念なことに、自分で選んだルーペでは倍率があわなかったり、使い方(持ち方や焦点の合わせ方で見え方がずいぶん変わります)を間違っていたりして、自分の視機能に対して過小評価してしまっている方も少なくありません。現在持っているルーペのチェックを広く呼びかけることも大切なことかもしれません。
 自分にあった倍率を自分で選びにくい理由はいくつか考えられます。レンズ径が大きければ拡大率も大きいはずだという、多くの人が持つ誤解が悪く影響していることも少なくないし、ある程度以上の高倍率補助具は、なかなか文具店や一般的な眼鏡店で取り扱いがないのも災いしているようです。
 また中心暗点をもつ人の読書は特殊で、ランドルト環で測った視力は0.5でも新聞や小説を読むためには10倍以上の拡大を要する、というような場合もあります。このような視力値と必要倍率に大きな乖離がある場合も個人では解決が難しいケースです。読書は困難なのに、視力が高い故に適切な補助具を見つけられないのです。
 話は脱線しますが、こういうケースは、さらに視力が高い故に手帳による補助もうけられないというハンデもあります。ルーペより高い倍率を出す拡大読書器(手帳交付者へは給付されるが自費だと約20万円)が必要となったときは、この差は大きく、高齢の黄斑変性症の患者さんの中にはちらほらこの問題に直面されている方も出てきています。ロービジョンルームでは、不要になった拡大読書器を回収し、こういう方達に長期貸し出しをする対応も検討し始めています。

2) パソコン訓練
 素材の拡大、コントラスト強調、音声化、が簡単にできるパソコンは、ロービジョン者にとってとても重要な道具です。就職・復職を目指すにはほぼ不可欠といえるものであるし、家事や育児をしている主婦にとっても、食材宅配の申し込みに、学校の先生との連絡帳がわりに、とパソコンの通信機能が重要なコミュニケーション手段となっています。また余暇活動としてのニーズも決して少なくなく、CDに記録された本(Daisy図書)で拡大文字と音で読書したり、挨拶状を作成したりなどの用途に使われています。
 しかしながら重要性は理解されていても、その操作方法を伝えるサービス機関が地域に少ないことは大きな問題です。そのため学習場所が、リハビリ施設、支援団体、市区町村の講習会のいずれにも当てはまらない患者さんに対しては、外来で個別指導をしています。今対象となっている患者さんは、再就職を目指す40代が3人、主婦が1人、70歳以上の高齢者が5〜6人です。マウスポインタを使わない操作練習となると、簡単とはいっても暗記しなくてはいけないキー操作があるので、高齢者には少し負担ですが、カードやメモを作って補っています。内容としては大切なことであることに違いはないのですが、結局外来の多くの時間を使うことになってしまうため、地域サービスとの連携を検討し始めています。

3) メール通信の効果
 ロービジョン外来に来られた患者さんの3人に一人は、ケアが一旦終了した後も、しばらく間をおいてから再び外来予約を自発的にとられていることがわかりました。これは、患者さんのニーズは常に変化していることや、前回のケア内容では問題解決まで至らないことを想像させる結果でした。そこで、一旦面談を終了した患者さんともホットラインを閉ざさないシステムが必要と考え、対策の一つとして電子メール通信を送ることとしました。音声ガイドのついた映画などのイベント情報や、患者さんのリハビリ体験の話、新しく開発された補助具の話などを2週間〜1ヶ月に一度配信しています。
 このメール通信は、予想外に大きな反響があります。紹介したイベントが外出のきっかけになったという話もききましたし、同じロービジョン患者さんの体験の話を進路決定に役立てた方もいたようでした。
 眼科でのロービジョン外来については、人手不足の中でどう対応するか、コストをどうするか、などこれまで討議されがちであったトピックに加え、どのようにして長期的に情報交換するかという問題もあるのだと実感しました。ロービジョン患者さんはその後もずっとロービジョンで生活されていくのです。患者さんのニーズが変わらない訳はないし、対するサポート資源も発展を続けています。その橋渡し役のロービジョン外来にとってはとても重要な問題を見逃すところでした。

4) 最近話題の用具
 最近市場に出たロービジョン用の日常雑貨は、音声での操作案内機能がついている携帯電話「らくらくフォンIII」、リモコンを押すとラベルがしゃべってくれる「ものしりトーク」、音声時計のキーホルダー、などでしょうか。詳しくは、下記ホームページをご参照ください。

・杏林ロービジョンルーム:http://www.eye-center.org/LVRhomepage/index.html

・視覚障害リソースネットワーク:http://www.twcu.ac.jp/~k-oda/VIRN/

・大活字:http://www.daikatsuji.co.jp/

・日本点字図書館用具部:http://www.nittento.or.jp/YOUGU/

・ジオム社:http://www.gandom-aids.co.jp/

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ロービジョン外来からの話題
バリアフリー建築への取り組み

西脇 友紀

 アイセンターのある外来棟5階には、廊下の中央に今は見慣れた青いラインが引かれています。しかしこのラインは、外来棟オープン当初はありませんでした。
 平成11年1月、出来上がったばかりの新外来棟の建物は、ロービジョン患者に対する配慮という観点から言って、決して満足のいくものではありませんでした。例えば、目立たない段差があったり、エレベータボタンの点字シールが誤っていたり、誘導用点字ブロックがフロアの色と見分けのつかない低コントラストのものであったり、点字ブロックの配置が不自然(その通りに歩くとまるで踊っているかに見えるような敷き方)であったり…。
 新しい外来棟を前にがっかりしてしまいましたが、皮肉なもので、このような問題に直面したことは、私たちにとって「ロービジョンにとってのバリアフリー建築とはどんなものか?」ということを改めて考え直すきっかけとなりました。私達は、まず患者さんの声を集め、視覚障害リハビリの専門家に意見を伺い、また院内の様々な危険個所の輝度測定(コントラスト算出)も試みながら現状調査を始めました。調査を始めてみると、多くの箇所に不備が見つかったため、それぞれの箇所の詳細説明と改善案をまとめて報告書を作成しました。報告書は、樋田教授から理事長に提出されました。その結果、何とも嬉しいことに、即、改修工事の指示が下りました。


 改修工事では、まず眼科フロアに「誘導ライン」が引かれました。視覚障害のない者にとっては、広がりのある空間は開放感があり心地良いものですが、ある種のロービジョン者にとっては、それは自分の位置と進行方向の手がかりを失った空間であるのです。そこに人工的に付与した手がかりが青いラインでした。このラインは多くの患者さんから「この線があるから歩ける」と好評で、その後に建てられた新病棟の眼科フロアにも引かれました。そのほか、エレベータの音声案内機導入(一部→全機)、案内表示の拡大、待合椅子の色や階段の段鼻の色の変更なども一連の改修工事として行われ、当初より大きな改善がみられました。
 しかしまだ「ロービジョンからみたバリアフリー建築」が完成した訳ではありません。美観を損なうとのことで見合わされている場所にも誘導ラインを敷設することや、案内表示の工夫(提示位置を目の高さに合わせる、コントラストをあげる、触読文字を追加する)、音声案内の設置など、まだ改善の余地は残っています。とはいえ、完成した建築物に変更を加えるのは、容易なことではありません。ハード面の不備はソフト面(院内スタッフによる介助)で補っていく必要がありそうです。スタッフに「ここ」「そこ」などの指示語を使わず適切な言葉で説明できる、また、患者さんより前に立ちながら誘導できる、などの適切な対応技術が広まるような働きかけも重要と考えています。
 社会全体でもバリアフリー建築分野の開発がにわかに活発になってきているようです。触読用のフォントの開発には杏林非常勤講師の東京女子大学小田浩一教授も携わっておられますし、様々な研究会の開催や、バリアフリー公共建築の報告なども集まりつつあります。私たちも今回の調査や実施の経験をもとに、病院ならではのポイントをまとめて、ホームページなどで公開し、少しでも社会に貢献できればと考えています。

正面玄関ドア境界/低コントラスト

高コントラストマーク追加後

階段/低コントラスト

高コントラストライン追加後

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カンティ先生の紹介

 8月から杏林アイセンターに留学中のMurtineni Kanti先生をご紹介します。カンティ先生はインド出身の若手眼科医です。1997年にAndhra Pradesh州のUniversity of Health Sciencesを卒業後、3年間の一般研修を終了しました。その後、眼科医を目指し2001年から2003年まで同大学病院で眼科研修プログラムを終了しました。しかし、2年前よりご主人が日本のコンピュータ関連会社に勤務することとなり、その異動に伴い今年の8月にカンティ先生も来日しました。杏林アイセンターでの留学期間は約2年を予定しており、現時点では主に樋田教授と三木先生の外来および手術の見学、また岡田の外来にも参加していただいています。      (A.A.O.)

イベント情報
〈EYE CENTER OPEN CONFERENCE〉

11月12日 (水)  「眼窩疾患」
 野田 実香先生  (慶應義塾大学医学部眼科)
PM 6:30 ~
場所: 外来棟の10階第2会議室

編集部より

 ロービジョンクリニックは今やアイセンターの大きな柱の一つです。田中・西脇の二人は毎晩遅くまで医者顔負けの働きぶり、学会報告も多く原著執筆もとても早い。研究主任をお願いしている東女大・小田教授の下で、大きな研究成果を上げています。ただ、幸い大学、病院の理解を得られているので出来ることですが、彼らの献身的な仕事内容は、今のところ保険診療の中では全く認められていないのが残念です。

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