2009年 Vol.29 "夏 号"

目 次

  1. 眼炎症グループの紹介(岡田アナベルあやめ)
  2. 眼炎症外来の疫学的調査(慶野 博、渡辺交世)
  3. 眼炎症グループの基礎研究(慶野 博)
  4. 永本敏之教授就任祝賀会からの写真アルバム
  5. 平成21年度外来表
  6. 新入局者の紹介
  7. イベント情報
  8. 編集部からのコメント

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眼炎症グループの紹介

岡田アナベルあやめ

杏林大学医学部眼科に着任してから、早くも10年が経ちました。10年前といえば、樋田先生、平形先生の下でちょうど「杏林アイセンター」が立ち上がるところでした。それ以前は眼炎症あるいはぶどう膜炎の専門外来や専門家はいませんでしたが、眼炎症外来を新設し、症例のデータベース化を開始。外来業務については、詳細な既往歴・全身症状の問診アンケートに加え、患者に対する主なぶどう膜炎疾患の平易な説明書を作成しました。また、入院を必要とする原田病、急性網膜壊死、感染性眼内炎などのような疾患のために、診断および治療のガイドラインも作成しました。最近ではベーチェット病に抗腫瘍壊死因子αであるインフリキシマブの治療も導入し、院内他科との連携会も設けて、本邦でも投与患者数が多くなってきました。杏林内はもとより、他大学からフェローとして勉強に来てくれる元気の良い若い先生方にも恵まれて、眼炎症(ぶどう膜炎、強膜炎)の臨床活動は年々拡大しております。2年前には慶野博先生が着任され、基礎研究分野も強化。本邦ではリーダーシップをとれるような眼炎症グループに近づいてきていると考えます。

現在、眼炎症グループのメンバーは慶野博講師、渡辺交世助手、瀧和歌子医師(非常勤)、早川るり子医師(非常勤)、中島史絵医師と岡田(主任)です。眼炎症の専門外来は、月曜日の午後(全員)と木曜日の午後(慶野講師)に設けております。本ニュースレターでは、眼炎症外来における疫学調査の結果と最近の基礎研究について紹介いたします。

眼炎症には「ややこしい」疾患が多いというイメージがあると思います。しかし、私たちにとって、眼炎症は全身との関連が深く、内科(本物医学?)の知識が必要であるため、非常に面白く、興味深い分野です。眼炎症グループへのご相談はいつでもお受けしておりますので、お気軽にご連絡ください。また、これからもご指導、ご支援をよろしくお願い申し上げます。

眼炎症外来の疫学的調査

慶野 博、渡辺交世

当外来では他院より原因精査・加療のために多くの症例を御紹介いただいており、1999年の開設以来、本年3月末日までに1162名に上る患者様が受診されています。今回1999~2007年に眼炎症外来を受診したぶどう膜炎・強膜炎患者915例について調査し疫学的検討を行いました。図1は性差別・年齢別のグラフですが、性差別に見ると男性382例、女性533例とやや女性に多い傾向がみられます。初診時平均年齢は46.5歳(5-91歳、男性44.9歳、女性47.6歳)、年齢別にみると男性の場合は30代が最も多く以降加齢とともに減少していますが、女性では20~30代と60代の二峰性に増加を示しています。

次に病型別でみていきますと(図2)、最も多いのは強膜炎で97例(10.6%)、次いで原田病92例(10.0%)、サルコイドーシス58例(6.3%)、急性前部ぶどう膜炎54例(5.9%)、ベーチェット病49例(5.4%)と続き、ぶどう膜炎の原因として3大ぶどう膜炎を含む内因性(非感染性)のものが大半を占めています。その次に多いのが結核の36例(3.9%)となっており、戦後減少の一途をたどっていたはずが都市部を中心に蔓延していることが問題になっていますが、他施設からの報告に比較しても頻度が高い傾向がみられました。またトキソプラズマ症やトキソカラ症、猫ひっかき病などにおいては、生活習慣の変化(生肉の摂取)やペットブームなどの影響も考えられます。なお各種検査にも関わらず分類不能なものが352例(38.5%)と全体の4割弱を占めていました。

年代別・男女別で見ると(図3、4)、若年男性では従来の報告通り、ベーチェット病の頻度が最も多く、一方サルコイドーシスは全体的に女性多く、特に60歳以上の女性では最も頻度が高い傾向がありました。そして60歳以上のぶどう膜炎の原因として悪性リンパ腫の頻度が他の年代に比較して高いため、高齢者のぶどう膜炎では注意しなければなりません。

眼炎症グループの基礎研究

慶野 博

1)実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU) ってなに?

外来でぶどう膜炎の初診患者さんを診察していると、患者さんから「私の眼の炎症の原因はなんですか?」とよく聞かれます。例えば代表的な難治性ぶどう膜炎にベーチェット病がありますが、なぜベーチェット病でぶどう膜炎が発症するのか、その明確な要因は未だに不明です。しかし活動性の非常に高いベーチェット病患者の血液からとってきた白血球細胞が、炎症を惹起するサイトカインという液性因子、なかでもtumor necrosis factor (TNF)-aという物質を大量に産生するということが最近報告されました。このTNF-aという物質が実際にぶどう膜炎の病態に関与しているのか評価するために用いられたのがヒトぶどう膜炎の動物モデル、実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(experimental autoimmune uveoretinitis: EAU)です。EAUでは、網膜由来の蛋白質(抗原)をマウスやラットなどに免疫することにより抗原特異的な免疫応答が誘導され、その結果ターゲットとなる網膜やぶどう膜に炎症が生じます(図1)。実際、TNF-aを中和する抗体をマウスに注射することでEAUが抑制されることが報告され1)、さらにベーチェット病に対して抗TNF-a抗体製剤が眼発作を強力に抑制することが臨床治験で明らかとなり、2007年1月、本邦において抗TNF-a抗体がベーチェット病に対して保険適応となりました。このように、動物モデルを用いた研究は新たな治療薬についてヒトに対する治療の前段階での有効性を判定する上で必要不可欠なものです。現在、我々はこのぶどう膜炎動物モデル(EAU)を用いて、難治性ぶどう膜炎における次世代の治療法の開発を進めています。

2)最近の研究成果について

ぶどう膜炎の病態には未だに不明な点が数多く残されていますが、最近になり、先ほど述べた「サイトカイン」という物質がぶどう膜炎の病態形成に関連し、中でもインターロイキン(interleukin)と呼ばれる液性の因子がぶどう膜炎の発症に関係していることが分かってきました。我々は米国ボストン市のSynta社との共同研究としてSynta社で開発されたインターロイキンをブロックする薬剤(STA-5326)を用いてEAUに対する抑制効果について検討を行いました。その結果、STA-5326を内服させた群では対照群に比べて炎症スコアが有意に抑制されることを見いだし(図1は対照群、図2は薬剤投与群) 2)、さらに薬剤の投与時期をぶどう膜炎の生じる時期から開始しても、炎症が軽症化することが判明しました。これらの実験結果は、ヒトぶどう膜炎に対して本薬剤が有効である可能性を示唆しています。すでに米国では本製剤を用いた臨床試験が関節リウマチの患者を対象に開始されており、 その治療効果に大きな期待が寄せられています。現在、我々は上記の STA-5326と異なる治療コンセプトに基づいたぶどう膜炎に対する新たな治療法の開発も行っています。近い将来、杏林アイセンターからぶどう膜炎をはじめとする様々な眼炎症疾患に対する新たな治療戦略を発信できるよう、さらに研究を推し進めていきたいと考えています。

参考文献

  1. Dick et al. J Autoimmun. 1998 11:255-264.
  2. Keino et al. Arthritis Res Ther. 2008;10(5):R122.

永本敏之教授就任祝賀会からの写真アルバム

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平成21年度外来表

新入局者の紹介

佐野公彦

今年から念願の杏林大学眼科に入局した佐野公彦です。東京医科大学を卒業後、初期研修は秋田県の市中病院で行いました。環境の変化に戸惑い早く東京に帰りたいと思っておりましたが、いざ秋田を後にするときは本当に辛かったです。今は、仕事に慣れることで精一杯ですが、徐々に眼科の楽しさも知っていけたら良いと思います。

城下哲夫

今年入局1年目の城下哲夫です。杏林大出身で院内で初期研修も行いました。初期研修では、眼科はもちろん、各科の多くの先生方、スタッフ方にお世話になりました。研修で学んだことや、その時の人間関係も生かして、眼科での後期研修に励みたいと思います。哲夫という名前に負けないような、日本一の眼科医を目指して、眼科を楽しみたいと思っています。よろしくお願いします。

イベント情報

第52回 東京多摩地区眼科集談会

開催日時:2009年10月3日(水) 14:00〜16:30
開催場所:杏林大学大学院講堂
会  費:1,000円
特別講演:瓶井資弘 先生(大阪大学 医学部 眼科 准教授)
     「静脈閉塞症治療のupdate」
※ 日本眼科学会認定専門医 2単位

第11回 西東京眼科フォーラム

開催日時:2009年11月4日(水) 19:00〜21:00
開催場所:吉祥寺第一ホテル 8F「飛鳥の間」
会  費:1,000円
特別講演:高橋 浩 先生(日本医科大学 眼科 教授)
     「角膜:アップデート」
※ 日本眼科学会認定専門医 2単位

OPEN CONFERENCE

開始時間:18:30
開催場所:杏林大学病院 外来棟 10F 第2会議室

2009年6月17日(水)
 富田 香 先生(杏林大学 眼科 非常勤講師・平和眼科)
 「小児のロービジョンケア」

編集部からのコメント

岡田先生が立ち上げた眼炎症外来は10年間でアイセンターの看板にまで成長しました。それには、多数の優秀なフェロウが貢献しました。他施設からの新しいフェロウも募集しています。今年も個性的で頼もしい2人の新人が入局しました。新たな気持ちで頑張ります。(AH)