アイセンターロービジョン外来の
はじまりから現在

ロービジョン室:新井 千賀子、尾形 真樹
田中 恵津子、西脇 由紀

アイセンターロービジョン外来のはじまりから現在

田中 恵津子

アイセンターの特色の一つとして、ロービジョンリハビリテーションの提供が掲げられ、ロービジョン外来はアイセンターと共に成長した外来です。先駆者達によって確立した哲学、患者さんの眼だけでなく生活全体に役立つ医療をどのような形で実践するかを試行錯誤の中で探った初期は、多くの医療以外の専門職らにより助けられました。

ロービジョンケアにはどのような視機能評価が有効か、中途でロービジョンになった患者さんの生活にはどのような困難が生じるのか、まず必要な技術・用具・情報は何かなど、未知の領域の知識獲得に貪欲に取り組みました。少し実践して少し振り返ることの積み重ねから多くを学び、適切な介入によって患者さんの生活が大きく向上すること、そしてそのような生活変化の体験談が他の患者さんを勇気づけるものであることなどを知りました。

少し時間を経て長期的な関わりを経験すると、ロービジョン患者のサブグループ(例:糖尿病患者、高齢者、進行性疾患)に特徴があることなどを感じるようになりました。10年経った現在は、積み重ねの中から学び感じる過程にいるような気がします。

多様なニーズに応えられる現在

尾形 真樹

ロービジョンルームを訪れる患者数は増加の傾向にあります。これに伴い、患者の疾患・年齢・ニーズが多様化しています。多様化の背景には、見えにくさによって日常生活に不便があれば、視機能低下が軽度でもロービジョンルームに相談してみよう、という患者や医師のロービジョンケアへの認識の変化も影響しているのかもしれません。

患者さんからの最多の訴えは読書困難の解決ですが、移動、日常生活動作、コンピュータ操作、就学・就労、視機能理解に関する相談も多くあります。最近では、具体的な困難解消の相談ばかりでなく、視機能低下に伴う将来への不安という漠然とした相談内容も少なくありません。現在のロービジョンルームには、視覚情報処理、乳幼児、視覚障害リハビリテーションを専門とする特色ある各担当者が患者の多様なニーズに応える体制があります。また、リサーチディレクタである小田浩一教授(東京女子大)との研究活動も引き続き行っています。

ロービジョンケアの知識・技術、体制を整えた現在ですが、多様なニーズへのケアを具体的な形として多く残すことが次の課題となると考えています。

新たな発展を目指して

新井 千賀子

日本のロービジョンケアは2000年に日本ロービジョン学会が設立され大きく動き始めました。杏林ロービジョンルームの10年は日本のロービジョンケアの発展と重なっています。この間、ロービジョンケアの必要性と重要性は社会的に一定の評価を得てきたように思います。今後は、蓄積された知見をさらに深く専門性を追求しエビデンスにもとづいたケアが求められてくると思います。また、コスト面での課題もあり実施したケアの具体的な効果を示すことも必要となりそうです。ロービジョンルームもこのような視点をもって新たな挑戦をしていかなくてはならないと考えています。3年程まえに、常勤の担当が草創期のメンバーから入れ替わりました。先のことを考えると3代目のジンクスがつい頭をよぎります。これまでお力を頂いていた方々にはかわらずのご支援をお願いしたいと思います。そして、いままで築かれてきた財産を土台にして堅実に地道に努力していきたいと考えています。

眼科プラクティス14『ロービジョンケアガイド』
(樋田哲夫編 文光堂 2007.3)

西脇 友紀

ロービジョンは患者さんの生活にさまざまな不便や不安をもたらします。それらを軽減・解消するには、医療分野で行うケアにとどまらず、福祉や教育の分野、あるいは生活環境の整備など多領域における支援・調整が不可欠です。本書は、それらの概要を臨床眼科医等に示すものとして企画されました。そのため各単元の執筆は、それぞれの分野の専門職が担当し、幅広い内容になっています。

樋田先生は、実地医家対象の「眼科プラクティス」シリーズに、編者として「ロービジョンケア」をテーマに選択され、本書序文では「臨床眼科医は単に疾患の治療にあたるだけでなく、視覚障害者にとってバリアフリーな真に豊かな社会を作るために積極的な働きかけをするリーダーでもあってほしいと考えます」と述べられています。これは、アイセンター設立にあたり、ロービジョン外来をその柱の一つとして据えられた樋田先生の思いの一端が表されたものと思われます。

本書は、こうした樋田先生の思いと、患者さんに関わる各分野の専門職の思いが詰まった一冊です。

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