アイセンター10周年を迎えて
主任教授 平形 明人
杏林大学病院眼科が、アイセンターという形で新たにスタートして10年目を迎えました。あっという間に過ぎましたが、設備も体制も大きく変化しました。ここまで発展してこられましたのも先生方のご支援の賜物です。深く感謝を申し上げます。
本号では、各分野の10年の軌跡を報告したいと存じます。アイセンター設立の目的は、細分化した眼科専門分野をカバーし、各分野において先進的医療を取り入れ実践しながら、患者本位の高度眼科医療を進めていくことです。そして、アイセンターでの経験を通じて、質の高い眼科generalistやsubspecialistを養成することです。このアイセンター構想の目標への到達にはまだまだですが、この10年の間に、杏林眼科も非常に進化しました。アイセンターの忙しい臨床を通じて、診療体系も充実し、多くの立派な眼科医が育ちました。外来患者数、紹介患者数(表)、手術件数など、全国大学病院のトップクラスに位置するようになりました。これは、わが国最初のアイセンターの構想実現に向かって、若い医局員から同門あるいは関連施設の先生方の一致協力のおかげですが、さらにアイセンターに多くの患者さんを紹介して下さったり、研究会や勉強会を盛り上げてくださった多摩地区をはじめとする実地医家の諸先生方の温かいご助力やご助言によるものです。本当にありがとうございました。
10年前、藤原教授、樋田教授の下で、新外来棟のオープンとともに始動しましたが、このアイセンター構想を最初に大学の上層部に提出したのは1993年でした。高齢化社会を予期して、quality of lifeを高く求める社会が到来しつつあり、そこで感覚器、特に視覚医療の発展がわが国で非常に大切であることを主張しました。さらに、眼科の細分化に伴い、それぞれの充実とよりよい眼科医師教育のためには、スタッフの増加と充実、設備の拡大が求められることを希望いたしました。日本の大学病院ではまだ経験のないアイセンター構想を内外に宣言することで、そのシステムが未熟であっても、一流の眼科医療を展開したい強い気持ちを有することを表現したいと考えました。杏林大学は、私たちの本意を理解してくださり、新外来棟5階をそのスタートの場として提供して下さいました。アイセンター構想で計画しているスタッフ数やハード面の規模は大きく、10年たってもまだ未完成でありますが、眼科診療システムが進化する基盤となりました。
この10年のアイセンターの変化のなかでも、眼科専用手術室(外来手術室内)の充実、情報処理室によるアイセンター内のネットワーク、low vision外来の活躍、病棟ナースによる外来看護の連携、外来手術の顕著な増加、眼科病棟と外来の一体化、糖尿病内科と同時診察、eye bankの認可、白内障手術wet labシステム、他大学からのfellow systemなどが、診療や教育の充実に大きく寄与しました。たとえば、眼科専用手術室は、局麻手術の多い眼科手術を中央手術室から分離することで、眼科緊急手術の対応を著明に改善しました。low vision外来は、進行した糖尿病網膜症や加齢黄斑変性、緑内障、網膜色素変性などの重篤な患者さんの残存視機能を生かすための手段を提供しており、多くの低視力や失明となった患者さんが生活維持のための助言を得ることができました。それ以上に、アイセンターの若い医局員や医学生が、low vision外来を通じて、疾患のみを見るのでなくて患者さん自身の生活拡大に配慮するという眼科医療者の心を身につける契機になっているようで、眼科教育機関にはなくてはならない部門であることを知りました。
アイセンター構想に掲げる目標は高く、理想の実現のためには多くの課題があります。新入医局員の増加やフェロウ体制の確立など人材の確保も根本的な問題です。臨床の充実とともに、それを進歩させるための研究体制も発展させなくてはなりません。本年2月、アイセンター設立の中心であった樋田哲夫名誉教授が急逝されました。痛惜の極みでありますが、樋田先生は、アイセンター設立時に、お互い助け合う強い絆と明るい雰囲気を失うことなく、若武者のごとくアイセンターの理想に向かうことを宣言されています。来る10月には樋田先生が会長になっている日本臨床眼科学会を杏林大学が主催します。ちょうどアイセンター10年の記念となる学会です。樋田先生に楽しい報告ができるように、次の10年に向かって、医局員が心をひとつにして頑張ることができるように努めたいと思います。
多くの先生方には、今後も厳しくも暖かいご指導とお力沿えをよろしくお願いいたします。